楽しい歌謡ショー - スティービー・ワンダー来日公演

そういえばこの間、スティービー・ワンダーのライブに行ってきたんだった。そりゃあもうとんでもなく見事なショーだった。ステージの冒頭、"Too High"、"Visions"と、マスターピース中のマスターピース、『Innervisons』のオープニングを飾る2曲がそのままの流れで披露されたのに度肝を抜かれたのに始まり、畳み掛けられる名曲の数々。以前にもスティービーのライブは観たことがあって免疫はあったはずなのに、それでもただただ圧倒されるばかり。力量が違いすぎる(なんてったって"I just called to say I love you"だとか、"Overjoyed"のような、ちょっと退屈だよな、と思わされる曲すら新鮮に聴こえるんだもの)。その力量でもって、"Don't you worry 'bout a thing"だとか"Another Star"、"As"や"Superstition"のような、非の打ちようのない曲ばかりを立て続けに聴かされるんだからそれも当然と言えば当然か。僕の席から通路を挟んで右側にいた、Bボーイ風の男の子が、「信じらんねえ」だとか「夢みてえだ」といった感じの惚けた顔で、ひたすら身体を揺らしていたのが印象的だった。うん、僕も前回はそういう顔してたよ、きっと。いや、今回もかな。
ところで、そんな圧倒的なライブだったのに、帰り道ではどうにも狐に化かされたような気分になったのも重要なポイント。それもこれも、前半の圧倒的なライブからいつの間にか、後半は「スティービー先生の楽しい歌謡ショー」に演目が切り替わっていたから。「じゃあコーラスの練習をしよう。ララララー」と、観客全員がボイストレーニングのようなコーラスの練習をさせられ、そのまま歌っているといつの間にか"My Cherie Amour"のイントロに繋がっていたり、「リズムに合わせて声を出してみよう、こんな感じで」とスティービーに言われるがままに声を出していると、それが"Part Time Lover"のあのリフレインに変化していたりと、参加型のお楽しみ企画が目白押し。そんなことをやらないで、ただただ曲を聴かせてくれるだけでも誰もが満足するほどのライブができるのに、いったいなんであんなことになってるんだろう。楽しすぎてうっかり、前回観に行ったときには歌ってくれた、"Sir Duke"やら"Golden Lady"が聴けなかったことの不満が吹き飛んじゃったじゃないか。次の来日の機会があったら、もう1日限りの参加はやめにしよう。なんなら全編歌謡ショーだっていいんだ。