ライフ・アクアティック

(注意)内容に触れまくります。まだこの映画を観ていなくて内容を知りたくない人は読まない方がいいかも。


笑ったり、泣かされたりと大変だった。安っぽいセットとちゃちなCGが駆使されるのが逆に魅力に思える、力いっぱいB級な素晴らしい映画。始まってすぐ、息子と名乗る男に出会った直後、デヴィッド・ボウイの"Life on mars?"をバックに船の先端で煙草をくゆらす主人公の姿に早速涙が出そうになる。あの完璧な戸惑いの姿!しかも、またあの曲のサビの歌詞が変に状況にマッチしているもんだから。そこを起点に紡がれていく、大人になりきれなかったどうしようもないロクデナシの、みっともなくて、だからこそ涙を誘う物語。きっと、立派な大人になれていないな、という自覚のある大人の男は、この映画を観るとみな泣けてしかたないように思う。ラスト近くの「手」のシーンはもちろんのこと、試写を観れずに会場の外に座り込んでいる姿なんかも泣けてしかたなかったもの。


それにしても、前述の"Life on mars?"が流れる瞬間もそうだけど、全篇を通して、この映画は音楽も魅力のひとつだった。だって、人が変わったように荒れ狂うあのシーンで、まさかストゥージズの"Search and Destroy"を使うなんて、どう考えても正気の沙汰じゃない。明らかにやりすぎていて惚れ惚れする。


全体としては素晴らしい、と思える映画だったんだけど、腑に落ちないことがひとつだけ。主人公に子種がないと明かされるシーンがあったけど、あの伏線がきっちりと回収されていないような気がする。それとも、終盤で息子と名乗り出た男のことを養子にしたいと言っていたことがその回収だったんだろうか。実は息子でないことはわかっていた、あるいは、実の息子であろうがなかろうが構わない、という意味のどちらかで。そこだけがどうしても気にかかる。わかった人は教えてください。