「クラッシュ」

どうやらアカデミー作品賞を受賞した、らしい。それ以外にも各所での絶賛ぶりに、きっといい映画なんだろうな、でもそこまでじゃないでしょう?と疑い半分で鑑賞してみた。甘かった。完全に降伏。穿った見方をしていた自分を恥じたい。もしこの映画をまだ観ていない、身近な人から感想を求められたとしたら、「つべこべ言わずにとっとと観に行けよ。なんなら俺がチケット代を出してもいいから」と答えるような気がする。本当に、本当に素晴らしい映画。何度賛辞を述べても述べ足りないほど。観ている間、物語の中盤からエンドロールまで、ずっと全身の震えが止まらなかった。
映画自体は人種のるつぼと言われるロサンジェルスを舞台にした群像劇。それぞれがそれぞれの事情を抱えた人々が、それぞれに悩み、戸惑い、もつれあい、ぶつかりあう様子が丹念に描かれている。ほとんどすべての登場人物が見せる、この選択は(あるいはこれまでの自分の行いは)正しかったんだろうか、という戸惑いの表情が印象に残る。


この世の中は人と人とが関わり合いを持つことや、充分に関わり合いを持たないことで生まれる、差別や偏見、諍いや不安、驕り、身勝手な振る舞い、誤解、すれ違い、勘違い、抑圧された感情なんかに満ちていて、やりきれない思いをすることも少なくない。ただ、ふとした拍子に遭遇した出来事や、思わぬアクシデントにより視点が変わり、そういった凝り固まった感情や絡まりあった思惑なんかが融けたり解けたりする瞬間は確かにあって、そんな瞬間を待ちながら(あるいは自分の手元に引き寄せられるように願いながら)僕は暮らしているのかもしれない、とぼんやりそんなことを考えた。