ミシェル・ウエルベック / 闘争領域の拡大

 闘争領域の拡大
ちょっと気になっていた本ではあったのだけど、altonさんのところで魅力的な箇所が抜粋されていたのでようやく読んでみました。以下雑感。


これは、主体と客体についてのものがたり。主人公は語り手でありながら、常に観察者の立場にてものごとを捉えていく。そして辿り着く結論が、タイトルにもなっている、「闘争領域の拡大」。これはセックスが社会的に自由化されると、経済と同じで、持つものと持たざるもの差異が大きく現れてしまう、それはすなわち闘争領域の拡大である、という概念なのだけれども、これを僕はどうにも字面どおり読めないのです。当たり前のことのような気がして。日本の感覚ですらそう思えることもあるんだから、セックススキャンダルが存在しないと言われているほど、性的に奔放なフランスでは、よりいっそう当然のこととして受け入れられるんじゃないかな。なので、どうしてそれを敢て言葉にしなければいけなかったかを考えると面白い。過ぎた分析は、主体と客体を剥離させてしまう。これは、いつの間にか剥離してしまった主体と客体を繋ぎ合わせるためのものがたりだ。作中でのその試みは苦痛のままに終わるけれど、それはそれで構わない。剥がすときに痛みが伴わなかったのなら、接合するときに痛みが生まれるのも当然。良い本を読みました。